研究の内容

心理カウンセリングに関して、包括的に、いろいろなことを研究しているのですが、主要なものは二つになります。ひとつは「ダイナミック・アセスメント」、もうひとつは「多元的ブリーフセラピー」です。聞きなれない言葉だと思います。

では、この二つについて簡単に説明してから、最後にこれまでに分かっていること、研究成果についてお話ししましょう。

ダイナミック・アセスメント

相談者が最初にやってくる初回の面接を、受理面接とかインテークと言います。このときに、どのようなお悩みなのか少し詳しく事情を聴くことになります。このインテークの冒頭と終了時に、同じ心理テストを行って、その変化を調べます。これがダイナミック・アセスメントです。

例えば不安や緊張感を測る心理テストを行った場合には、カウンセラーに悩みを話すことによって、相談者の不安や緊張感が「とても下がった」とか、「あまり変わらなかった」とか「もっと緊張してしまった」など、数値になって結果が出てきます。このセッション前後の数値の変化を、相談者の実感と照らし合わせながら、話し合うことになります。

研究しているのは、インテークでお話しすることによってホッとした人たちと、あまり緊張感が緩和されなかった人たちでは、その後の回復の仕方に違いがあるのかということです。


多元的ブリーフセラピー

かつて心理カウンセリングの世界では、カウンセリングによって相談者が回復するためには長期間かかるものだという考えが根強くありました。そのような考えに対する疑問からこの研究はスタートしました。できる限り少ない回数で相談者の回復プロセスを促進するにはどうすればよいのか、自分で試行錯誤した結果として生まれたのが、この多元的ブリーフセラピーです。

多元的ブリーフセラピーとは、セッション回数が制限された、短期集中型のカウンセリングのことです。インテーク面接とフォローアップ面接のほかに、基本的に4回のセッションが行われます。始まりから終わりまで、およそ三カ月程度を要します。

研究しているのは、この短期集中型のカウンセリングにはどのような効果があるのかということです。悩み苦しみの中にあって機能不全を起こしている、相談者の認知、感情、行動といった心理的要素が、このセラピーによってどの程度肯定的に変化するのか、様々な側面から調べています。


研究成果-これまでに分かっていること

いまの段階でどのようなことが分かっているのか、主な研究成果についてお話します。まだ研究の途上にありますので、データに裏打ちされた、比較的はっきりした結果についてのみ触れることにします。

ダイナミック・アセスメントについて

不安感の強い人たちを対象にしたリサーチです。インテークの話し合いで「ホッとした人たち」と、緊張感が緩和されなかった「あまり変化しなかった人たち」について、カウンセリング終了時と、そこから一か月後のフォローアップの時に、不安からどの程度解放されたのか調べてみました。すると、「ホッとした人たち」と「あまり変化しなかった人たち」には、変化の仕方に違いのあることが分かりました。

ホッとした人たちは、二カ月のセラピーが終わる頃には不安が有意に下がり、さらに一か月後のフォローアップのときにはもっと不安が下がっていました。あまり変化しなかった人たちは、同じようにセラピーが終わる頃には不安が下がっていましたが、フォローアップのときにはさらに下がっているわけではなく、セラピー終了時と同じ水準を維持していました。

まだまだ協力者の数が少ないので、断定することは難しいです。この結果からは、カウンセリングの初期段階で、相談者が数か月後にどの水準まで回復しているのか予測できるかもしれない可能性が見えてきました。

いま言えるのは、これだけです。引き続き調査を続けていきます。

多元的ブリーフセラピーについて

多元的ブリーフセラピーにはどのような効力があるのか、以前、小規模なパイロット研究を行ったことがあります。その結果を簡単にお話しすることにします。

感情が不安定な方や感情コントロールが弱い方々を対象として、セラピーの効果研究をしました。人数は大体50人くらいです。精神科・心療内科に通院中の方はいません。過去に通院歴・入院歴があるとしても、治療を離れてから半年以上経過していて、全体に占める割合は45%くらいでした。

世界的に広く使われているPOMS(Profile of Mood States)という心理テストがあります。これは、いろいろな感情を測定するために開発された、とても感度の良い尺度です。不安、抑うつ、怒り、混乱、活気、疲労という、六つの感情成分が測定できます(現在は改定されて、さらに感情成分が追加されています)。これを使って相談者の感情の変化を測定してみました。

測定するのは、最初のインテーク面接とフォローアップ面接の時です。2時点の間隔は、だいたい三カ月です。スタート時点で普通の範囲を超えていた感情成分がどの程度下がるのか、普通の範囲を超えていた人がどれくらい普通の範囲まで下がってくるのか、次のような結果が出ました。下がった人と下がらなかった人の人数比を調べました。

その結果、不安に関しては71%の人が普通の範囲まで下がりました。抑うつは74%です。怒りは80%です。混乱は70%です。統計の力を借りて検定してみると、有意な変化とみなせるものでした。しかし、活気は64%、疲労は60%程度しか肯定的に変化せず、統計的には有意な変化とみなすことができませんでした。おそらく、生理的な影響の強い感情要素なので、セラピーによってはあまり左右されなかったのでしょう。

これらの数字には、セラピーの純粋な効果だけでなく、相談者が潜在的に持っている自己治癒力や環境の肯定的変化などによる自然回復部分も含まれています。それらをトータルに含みつつ回復する方々が、この数字として示されていることになると思います。

いずれにせよこのリサーチでは、来談された方の7~8割がお元気になったかな、回復されたかな、という主観的印象を持っていまして、この数字は自分の主観的感覚ととても一致するような気がしています。


注意点

ここに書いたのは、あくまで過去に行われたリサーチの結果にすぎません。カウンセリングの効果には個人差がありますので、今後のっぽろカウンセリング研究室に来談されると71%の方々の高不安が緩和されるとか、74%の方々の抑うつが回復することを保証するものではありません。

いまの時点で言えるのは、多元的ブリーフセラピーには、気分や感情に対する一定の緩和効果があるだろうということだけです。どうぞご理解のほどよろしくお願いします。